クロースドノート

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『アルキメデスの大戦』の絶妙なシナリオ構成に唸らされた2019年の夏。


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こんばんは、とにくろーすです。

2019年の夏に公開された邦画でオススメするならどれ?と問われたら、

私は迷いもなく『アルキメデスの大戦』を勧めるだろう。

 

 

歴史物のフィクションは、
史実で結末が分かっているからこそ、
分かりきっている結末に至るまでの丁寧なシナリオ構成がとても大事になってくる。

本作はまさに、この分かりきっている結末を逆手にとって魅力的なシナリオに仕上げていたのである。

SNS上での口コミも軒並み好評であるのも頷けた。

この映画は例えるならば、
囲碁のルールは分からないけども物語の面白さに引き込まれた『ヒカルの碁』や、
ドラマ『ガリレオ』のように数式が分からなくても楽しめる感覚ですね。
もちろん歴史に疎くても問題ありません。


さて、この映画の主人公は、
櫂直(かい・ただし)という帝大出の元学生である。
「美しいものは測りたくなる」
「数字は嘘をつかない」
といった口癖がある、100年に一人といわれるほどの天才的な数学センスの持ち主。

 

時は1933年(昭和8年)。
当時、海軍内部では「これからの戦争は航空機が主力となるから空母を造るべし」と唱える山本五十六らと、
「世界一巨大な戦艦を作って、帝国海軍の軍事力を誇示するべし」と唱える平山中将らの派閥に分かれていた。

櫂はひょんなことから海軍の山本五十六と出会う。
山本五十六らと対立する平山中将の巨大戦艦の見積書の不正を暴いて欲しいとの依頼を受ける。

ー以下、ネタバレ込みの感想を綴ってます。ー

 

 

 

軍人嫌いの櫂であったが、
山本五十六から巨大戦艦を造れば必ず日本は戦争への道を辿ることを聞かされ、
さらに国民が汗水垂らして納めた税金が莫大な建造費に費やされてしまうことに憤慨を覚え、海軍省に入省することを決める。


「巨大戦艦を造るのに何故空母案よりも安く見積りが出せたのか?」

櫂は2週間後に迫る造艦計画最終決定会議までに奮闘する。
なお、対立派の巨大戦艦の設計図は軍事機密にあたるので、手に入らない。
それならば、と櫂は横須賀に停泊中の戦艦“長門”を実測し、このデータを元に巨大戦艦のオリジナル設計図を完成させる。
その設計図をもとに本来かかるはずの実際の建造費を求めていくという計算である。

 

巨大戦艦派の妨害に遭いながらも、
最終決定会議当日では、
空母案の2倍近く、およそ2億円の建造費が掛かることを
見事に数学的根拠を使って、見積書の虚偽を明らかにする。


巨大戦艦の見積書の不正を暴いたことで、櫂や山本五十六ら空母推奨派の勝利と思われた。

しかし、ここから平山中将がこの見積額を安く掲示した理由について語る。
日本が2億円近くの国家予算をかけていると他国に知られたら、他国はより日本を警戒してくるであろう。
見積額をわざと安く出すことで、
他国に警戒されずに巨大戦艦を造ることができる。
敵を欺くにはまず味方から...という理論で、予想もしない巨大戦艦が突然洋上に現れれば相手は恐れをなして戦意を失うであろう、と。

 

この見解に海軍大臣も感嘆し、
平山中将の巨大戦艦案が認められようとした、その瞬間。


...櫂は平山中将の巨大戦艦の設計図から、ある欠陥を見つける。
それは船首と船尾だけ高波に耐えられる構造に成っていないという指摘である。
通常時なら問題ないが、万が一高波にさらわれた場合、この巨大戦艦は沈没すると断定する。

櫂のオリジナル設計図と実際の設計図を見比べて、平山中将は櫂の指摘を受け入れる。
むしろこのとき、平山は櫂の天才的な数学センスに惚れ込んだのであろう。

 

平山中将は責任を感じ、自らの巨大戦艦案を却下してほしいと海軍大臣に懇願する。
その結果、山本五十六らが提案した空母案が採用されることとなった。

ここをもって、巨大戦艦の建造計画を阻止することが出来たのである。
櫂の完全勝利となり、日本が戦争へと向かうこともないだろう。


しかし、冒頭5分で巨大戦艦沈没を目にしている(太平洋戦争の顛末を知っている)我々は、この物語がハッピーエンドで終わるはずではないことは既に分かっている。

しかし、上映時間も残り30分を切っている
段階で、どうやって風呂敷を畳むのだろうか...。

ここからの怒涛の展開が本作のシナリオ構成に唸らされた要因である。


回想シーン。
櫂が海軍省に入省したばかりの日に時が戻る。
ここで空母案を推奨していた山本五十六らの本当の狙いが明らかになる。

櫂が巨大戦艦の見積書の不正を暴けば、
山本五十六らの空母案が自動的に予算へ通ることになる。

この予算で造る航空機および空母はアメリカ艦隊基地を奇襲攻撃するため。

基地の場所は...

 

そう、ハワイ真珠湾 である。
非戦派といわれていた山本五十六もまた軍人の一人であった。


櫂が見積書の不正を暴いても暴けなくても結局戦争への道を回避できないルートへ辿っていたのである。
軍人嫌いで戦争反対だった櫂の思いと裏腹に、時代のうねりは戦争へと突き進んでいくのだった。
先の最終決定会議での勝利は皮肉にも真珠湾の奇襲攻撃に繋がっていく。


最終決定会議から数日後、
櫂は平山中将から呼び出される。
用件は、共に巨大戦艦を造らないかという誘いであった。
先日の会議までは目の敵であった平山中将からのまさかのオファーに櫂は戸惑う。

 

櫂「この艦は怪物だ、生み出してはならない!」

巨大戦艦は日本を戦争へ歩みませる危険性をはらんでいる。
国民も勝てると思い込んでしまうから、造ってはならない。
そう主張する櫂に、平山中将は衝撃的な一言を浴びせる。

 

平山「もう、君はすでに生み出しているではないか。」

櫂自身が長門の設計図を元に巨大戦艦のオリジナル設計図を描いたとき、
この美しい巨大戦艦を造ってみたいと思ったのではないか?
そう突っ込まれ、櫂は言葉に詰まってしまう。
戦争反対派の櫂だが、
彼は長門を眺めて戦艦の美しさに惹かれていた。
櫂が横須賀で長門を美しいと言わしめたシーンを描いていたのはこの為にあったか...


平山は続ける。
「私も君と同じことを考えているよ、アメリカと戦争をしたら確実に負ける」

 

満州国建設や国際連盟からの脱退で
日本は国際社会から孤立。

日本を敵対的な目で見てくる諸外国が多い中、戦争をしないという選択は国民が許してはくれないだろう。
何しろ、今でも日露戦争の勝利に酔いしれている国民そして軍部が大多数を占めているからだ。

工業力が日本の50倍以上あるアメリカと戦争が起きれば日本は確実に負ける。

日本人は負け方を知らない。
最後の一人になるまで戦おうとする。

そうなれば確実にこの国は滅びる
そうなる前に手を打たねばならない。

大日本帝国そのものを象徴する、世界一美しい巨大戦艦を造る。
その巨大戦艦が沈没すれば、日本国民はとてつもない絶望感にうちひしがれて戦意を失う。

日本国が滅びることを阻止できる。

 

この説明を平山が語っているとき、
そういうロジックで来たかー!と唸らされてしまった。
さっきまで目の敵であった平山が、数学の天才と言われた櫂より一歩先を見据えていたというところに鳥肌が立ってしまった。


櫂「つまり、この巨大戦艦は沈没させるためだけに造る...?」

 

平山「そうだ。そして、この艦の名は、、、『大和』。」

劇中通してここで初めて、『大和』の名前を出してくるところに内心震えてしまった。
『大和』という2文字が日本という国を如何に象徴的に表しているか、説明は要らないだろう。

そして、ラストは『大和』の出撃シーンで締め括られる。
(冒頭のシーンを繰り返さなかったのが好感が持てた)

 

櫂が『大和』を見送ったあと同僚(?)に漏らした言葉が櫂自身の悔しさまたは悲しみを想像させられるし、
『大和』が作られた真意を何も知らず、笑顔で見送る同僚と、涙を流す櫂の対比が辛すぎる。

映画はそのままエンドロールへと入り、
サントラに収録されている本作のメインテーマが館内に響き渡る。
本作の壮大さを見事に表しているこのメインテーマがまさにベストマッチで、映画の余韻に浸らしてくれた。


起承転結の“転”→“結”に至る展開がとても唸らされる『アルキメデスの大戦』、オススメです。